落語家 林家たい平さんインタビュー

HUMAN

2017.08.04
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落語家として寄席での活躍はもちろん、テレビやラジオでもお馴染みの林家たい平師匠。幅広いジャンルで活躍するモチベーションの源には、落語への深い愛情がありました。

落語家
林家たい平さん

自分の活動はすべて落語のすそ野を広げるため

――バラエティやCM、ドラマにと、
落語以外の活動も手広くされていますが、
落語とそれ以外の仕事はどのような関係がありますか?

僕は、落語に出会えて本当に良かった。それは、落語家になれたからではなくて、「落語を楽しむ」という人生の引き出しが増えたからです。世の中には、まだまだ落語に出会ったことのない人が大勢います。そういった人たちを落語に引き合わせるのが、ある意味では僕の使命だと考えています。落語だけしていたんじゃ、落語に興味のない人には出会えない。テレビのバラエティや旅番組に出たり、大学で講義をしたり…そういった僕の活動は、すべてが落語のすそ野を広げるための活動なんです。どこかで「林家たい平」を知った人が、落語に興味を持つ。そんなきっかけづくりになればいい。いわば、自分の人生を豊かにしてくれた落語への恩返しですね。

――そもそも美術大学に通っていた師匠が、
なぜ落語家を目指すように?

大学に入ってすぐ、教授が「デザインは人を幸せにするもの」と言っていたのがきっかけですね。可愛らしいコップでコーヒーを飲めば、優しい気持ちになれるという風に、デザインには人の心を変える力があります。自分のデザインはどうやって人を幸せにできるんだろう…と考える中で、落語に出会いました。落語に向き合う中で気付いたのは、人の心に情景を描き楽しい気持ちにさせ、人の心を変えられる。これはある種のデザインじゃないか、と。僕の中では、デザインも落語も同じことなんですよね。

『笑点』は独特の空気を放つ安らぎの時間

――『笑点』に出演されて10年以上が経ちますが、
たい平師匠にとって『笑点』とはどんな存在なのでしょう。

『笑点』は日本中に落語家を知らしめてくれるありがたい存在であり、素敵な週末、家族団らんを与えてくれる唯一無二の番組です。今の時代、大人から子どもまでが揃って楽しめるテレビ番組というのは、珍しいですよね。テレビの中では、それなりの歳を経た人間が、とぼけたことをしている。そんな姿って、核家族化が進むなかでおじいちゃんおばあちゃんと普段接しない子どもは、なかなか見る機会もありませんよね。その、いい意味でゆるい空気感が、あわただしい現代でひとつの癒しや安らぎになっているのではないでしょうか。もちろん、落語界にとっての看板番組ですので、『笑点』から落語に入る方も大勢いらっしゃいます。落語の楽しさを、出演者である僕たちがしっかりと伝えていかなければいけない。『笑点』に出演してから、さらに落語に対して強い思いを持つようになってきましたね。

――たい平師匠の落語には、
思わず話に引き込まれてしまう魅力があります。
コミュニケーションにおける魅力的な話し方というのは、
どうすれば身につくのでしょうか。

僕は常に「自分の周りに面白い出来事はないか」と思いながら過ごしています。「今日も嫌なことが起こりそうだな」と思って日々を過ごしている人は、周りで楽しいことが起こっても気付けなかったりします。毎日を「楽しいことが起こりそうだ」と思って過ごすと、それに気付ける。気付いたら、周りに伝えたいと思う。人とのコミュニケーションは、テクニックではありません。自分が感じ取った面白いことを誰かに伝えたい!と強く思うのが大切なんです。コミュニケーションというと、「すらすらしゃべれるようになりたい」と思う方もいらっしゃいますが、そうじゃない。たどたどしくてもいいんです。自分の琴線に触れた物事を、届けようと思う気持ちを持って人と接するのが、上手なコミュニケーションの肝になるんです。

――落語に対し、どこか敷居が高いイメージを
持つ人もいるかも知れません。

最初は、「テレビで知っている人が出ているから」くらいの気持ちで気軽に、落語を聞ける場に足を運んでいただければと思います。落語は、予習も何もいりませんし、寄席は途中の入退席も自由。予約も不要です(笑)。自分の周りが笑いに包まれている幸せな空間を、ぜひ感じていただきたいですね。落語そのものがわからなくても、その空間を感じていただければ、落語の持つ幸福感のとりこになると思います。便利になりすぎた世の中で、日本人は大切なことをぽろぽろとこぼしてきたのではないでしょうか。落語とは、そのこぼれ落ちた大切なものがぎっしりと詰まった宝箱のようなもの。スマートフォンや新幹線では得られないコミュニケーションや景色、そういったものがふんだんにあり想像の余地にあふれているのが落語です。「えっ!こんな楽しい空間があったの!もっと早く知っておきたかった!」と後悔しないためにも、少しでも興味を持ったら、まずは落語を聞きに来ていただければと思います。

[聞き手から]

「いつも笑顔で、とぼけている」というイメージを持って臨んだインタビュー。そんな印象が少し変わったのは、落語を通してのご自身の役割というものを人一倍意識して行動をされている姿勢でした。チャリティー番組での100kmマラソンを走った理由はその最たるもの。「とにかく走って、何かを感じてくれたら」という真剣なまなざしは、いつものブラウン管の中の師匠とは異なる側面を垣間見た思いでした。

林家たい平さん

88年、林家こん平に弟子入り。92年、二つ目に昇進。翌年、北区若手落語家競演会で優勝・NHK新人演芸大賞で優秀賞を受賞。2000年に真打に昇進後、04年には師匠・こん平の代打として『笑点』の大喜利に出演。その後、正式メンバーに昇格。08年、平成19年度芸術選奨大衆芸能部門文部科学大臣新人賞受賞。10年、武蔵野美術大学造形学部芸術文化学科客員教授就任。落語のみならずテレビやラジオなど幅広く活動を展開している。

オフィシャルWEBサイト
http://www.hayashiya-taihei.com/

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